うちの「鹿肉のキーマカレー」は、基本的にはいわゆる「スパイスカレー」や「クラフトカレー」に分類される料理だと思っている。
でもスパイスカレーと言うと、ホールスパイスやパウダースパイスの瓶がずらっと並んだ店で出てくる、こだわり抜かれたカレーのような印象が強いが、うちではホールスパイスはほとんど使っていない。
市販のルウカレーとは違うけれど、スパイスカレーにもなりきれない。
複雑でスパイスの鮮烈さを前面に活かした味というよりは、誰にでも食べやすい味。
「ハイブリッドカレー」とでも名乗っておこうか。
インドのカレーやスパイスカレー的な考え方と、日本の伝統的な欧風カレーのハイブリッド。
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インドのキーマとパキスタンのカライ

考え方の核となっているのはインド風のキーマカレーやパキスタンのカライ(カラヒ)。
大量の玉ねぎとしょうが、にんにく、トマトでベースを作り、小麦粉のルウを使わずに、オリジナルのスパイスミックスで香りをつける。
玉ねぎやトマトをほぼ調味料のように使うこの調理法は、パキスタンやインドを旅する中で学んだことだ。
パキスタンのチキンカライやマトンカライ、おいしかったな。
欧風カレーのアプローチ

日本のカレー文化の考え方も取り入れている。
「ソフリット」や「ミルポワ」を使う欧風煮込みの手法にならい、にんじん、玉ねぎ、セロリをじっくり炒めて具材にする。
この手法は、高級ホテルのカレーや伝統的な欧風カレーのレシピでよく用いられる。
特に、デミグラス系の欧風カレーやホテルのクラシックなカレーレシピでは、ミルポワ的な野菜の旨味が基盤となることが多い。
そこに赤ワインやバター、はちみつを加え、さらに奥行きとコクを出している。
もともと日本のカレーは、欧風煮込みの影響を受けながら、独自に発展したものでもある。
シンプルな具材の炒め物の延長のようなインドのカレーと、色んな食材をじっくり煮込んでとろみをつける日本のカレーはぜんぜん違う。
「旨味」が好きな日本人にとって、スパイスカレーやインドのカレーは若干物足りない場合があるようで、日本のスパイスカレーのレシピでは、かつおぶしや煮干し、昆布、しいたけなどの和風のだしを加えるパターンをよく見かける。
うちの場合はだしではなく、ここに欧風カレーのアプローチ。
しめじとヨーグルトとバスマティライス

そして、しめじ。
実家でカレーといえば「豚ひき肉としめじのカレー」だった。だから、鹿ひき肉を使ってカレーを作ろうと思ったときに、自然としめじをリストアップしていた。
実家ではざく切りだったけれど、このカレーでは他の具材と合わせて小さめにカット。
しめじの旨味が全体に深みを加え、これもまた日本ぽいテイストをプラスできていると思う。
ヨーグルトも重要な要素だ。
インドのキーマにはあまりクリーミーな要素はないけれど、バターチキンやコルマのような料理もある。
鹿肉のワイルドな風味には、ヨーグルトの酸味と乳製品特有のリッチさがよく合う。
ヨーグルトのとろみとまろやかさが加わることで、日本のカレーらしい仕上がりに繋がっている。
合わせるのはバスマティライス。
クミンシードを混ぜて炊いている。
この炊き方自体は、インドやパキスタン、バングラデシュを旅していてそう頻繁に遭遇したわけではないが、なんとなくやってみたらピンときて、それ以降はこのスタイルを継続している。
日本米(うるち米)で食べたことも何度かあるが、バスマティのほうが合うと思う。
冷凍カレーパックをご購入いただいた方はぜひ、バスマティライスと合わせてみてほしい。
バスマティライスは無印良品でも売っています。
カレーづくり

もともとカレーづくりに思い入れがあったわけではないし、特別に得意料理だったわけでもない。スパイスカレー屋を食べ歩いたこともない。
鹿肉を使ってイベントで提供しやすい料理としてカレーを出したのがはじまりで、想定以上に良い反響があり、すっかりその気になってしまったというのが実のところだ。
それからブラッシュアップを繰り返し、いまでは「鹿肉のキーマカレー」はla comedieの看板料理のひとつになっている。
伝統的なレシピや、どこかで食べた料理の再現ではない。
鹿肉をもっと多くの人に食べてもらいたくて考えた結果、生まれたカレー。
難しい工程はないけれど、何度もつくって、いろんな人に食べてもらいながら改良を重ねている。
カレーは好きだけど「カレーに取り憑かれた男」ではない。ただの料理好きがつくるカレー。
それがla comedieの鹿肉のキーマカレー。





